インプラント

インプラント治療とは

インプラント治療は、歯の抜けた部位に人工の歯根(しこん)を外科手術により埋め込んで、人工歯根が顎(あご)の骨に固着した後、人工の歯冠を上から装着する治療法です。

インプラントは永久的なものではありませんが、日々の清掃(歯磨)と定期的な検診を継続することで長期的に良好な予後が期待できます。

インプラントの歴史

その起源は、古代エジプト文明にあります。実際に機能したと考えられる最古のインプラントは、貝殻をつかった7世紀頃のマヤ族のもの。新しいと思われているインプラントには、実は長い歴史があるのです。

現代の歯科インプラントの基礎は、約100年程前に、西洋の歯科医が歯の抜けた穴に入れたネジ式のインプラントから始まります。

そして、現在の主流になっているチタンと骨を結合させるインプラント材は、1952年、スウェーデンのブローネマルク教授によって発見され、その後、さらに研究が進み、オッセオインテグレーテッド(骨に接合した)・インプラントの科学的根拠に基く確実性も立証されました。

人間の体はチタンを味方だと認識して、骨の方からチタンにくっつこうとする性質を持っているのです。

最新のインプラント

現代のインプラントはさらに進化しています。
素材の主流となっているチタンには、インプラント体の骨にうめる部分・歯根部に、骨との密着性が高い“HA(ハイドロキシアパタイト)”をコーティングしてあるため、チタンだけのインプラントに比べて飛躍的に癒合までの期間が短縮しました。しかし、初期のHAインプラントには、溶解や剥離といった信頼性への批判も存在しました。その後の研究でこうした問題はHAの純度が低かったために起こることが判明し、その問題を解決するため、HAの結晶度が高い再結晶化HAコーティングが登場したのです。再結晶化HAコーティングこそ、時代の最先端のインプラント材料なのです。

また、歯肉に当たる部分・支台部に施された“歯肉接着生体高親和性処理”により、インプラントは歯根との接合性のみならず、歯肉との親和性も大きく高まり、また、感染の危険性も最小限にしまし
た。
審美性にもすぐれた現在のインプラントは、歯根・歯肉ともしっかり接合するようになり、最終形ともいえる理想的な形となったのです。

再結晶化HAコーディング層による骨との親和性

再結晶化HAコーディング層による骨との親和性

● 歯肉接着生体高親和性処理によりHA層を再結晶化し、純化させます。

● HAコーティング層周囲に迅速に骨が形成されます。

チタン表面と歯肉との親和性(酸化チタン層とその組成が関与)

チタン表面と歯肉との親和性(酸化チタン層とその組成が関与)

● 酸化チタン層の厚みが増加します。 (4nm→8nm)

● カルシウム(Ca)が侵入し、親和性が工場します。 (表面に近いほどCaが多い)

歯肉接着生体高親和性処理

ワンピースの時代

ワンピースの時代

近年、インプラントの流れが変わってきました。
骨結合に時間がかかった時は、長期にわたり、ものを食べる度に負担がかかることを避けるため、2ピースのものが多く使われていました。しかし、オペが複数回にわたって行われ、時間も費用もかかる2ピースにかわり、最近の主流は1ピースになりつつあります。
1ピースの特長はまずシンプルであること。それは2ピースに比べオペが簡単で失敗がほとんどなく、回数もわずか1回で済む事です。オペの時間も短く、補綴(かぶせものを装着すること)までの時間も短期間ですみ、患者さんの時間的ストレスや費用の負担を軽減することができるのです。
こうした理由から1ピースタイプのインプラントは広く普及し、今や主流になるまでにいたったのです。

インプラントの長所と短所

インプラントの長所

インプラントの良い点は自分の歯と同様な感覚で噛むことができ、噛む力、味覚が低下しないことです。 また周囲の健全歯を傷つけず、審美性(外見上)も良好です。

インプラントの短所

インプラントの留意点としては、手術(抜歯と同程度の外科手術)が必要で全身疾患(重度の糖尿病など)やインプラントを埋め込む場所(顎)の骨が少ない場合など、場合によっては治療できない場合もあります。

インプラント治療の流れ

STEP1. 検査

STEP2. 説明

歯の抜けた状態
歯の抜けた状態

STEP3. インプラントの植立手術

インプラントを植立した状態

← インプラントを植立した状態

STEP4. 術後7~10日目  抜歯、インプラント清掃指導

インプラントの清掃(プラークコントロール)

インプラントは上部構造(人工歯冠)装着によりプラーク(歯垢)が付着しやすくなります。従ってアフターケアの基本として、プラークコントロール(歯磨)が重要です。各々の状況に応じて、通常の歯ブラシ以外にも、インターデンタルブラシ、デンタルフロス等の使用法も御指導致します。

STEP5. 術後2週間~1カ月目  経過観察

STEP6. 術後1~2ヶ月目 人工歯冠製作。装着、噛み合わせ調整。

インプラントの上部構造(人工歯冠)装着

上部構造(人工歯冠)装着はインプラント植立後1~2か月でインプラントの植立状態が良いと判断された時点で、歯型(印象)をとり人工歯冠を装着します。

インプラントを歯冠を装着した状態

← インプラントを歯冠を装着した状態

STEP7. 人工歯冠装着1週間~3カ月後  経過観察

STEP8. 人工歯冠装着1週間~3カ月後  経過観察

STEP9. 以後、1年おきにリコール

インプラント治療終了後の定期健診(リコール)

インプラントはアフターケアが非常に大事です。必ずリコールに応じてください。上部構造(人工の歯冠)装着後は1週間後、1か月後、3か月後、6か月後再診していただきます。その後も1年おきに定期健診を受けていただきます。

インプラント手術の注意点

インプラント手術を受ける前の注意事項



「かぜ」などで体調がすぐれない時は、自分で判断せず早めに連絡してください。
その際は手術を延期することがあります。


手術の前日から疲労をためないよう、充分な休息を取ってください。


当日は朝から普通に食事をなさって結構です。

インプラント手術を受けて1~10日までの注意事項



安静と食事

術後にはインプラントを顎の骨にしっかりと固着させるためにインプラントになるべく外力をかけないようにしなければなりません。そのため術後2~3日はできればお粥等、特に柔らかい物をたべるようにして、インプラントを植立した部位では噛まないようにしてください。

術後3~4日は腫れる場合がありますが、4~5日で消退します。腫れが気になる場合は濡れタオルで冷やしてください。その際インプラント部位を強く押さないようにしてください。手術後に痛みの出る場合がありますので、鎮痛剤(痛み止め)を処方します。


安静と食事

術後、鎮痛剤(痛み止め)と抗生物質(化膿止め)、胃薬を服用してもらいますが、用法を守ってください。鎮痛剤は服用間隔を3時間以上あけてください。

またうがい薬を処方しますので毎食後と寝る前にうがいをしてください。
術後1~2日は唾液に血液が混じることがありますが、術創部を安静にするために、あまり強いうがいはなさらないでください。


入浴

当日の入浴は控えてください。


アルコール

当日の入浴は控えてください。


抜糸

手術部の抜糸を7~10日で行います。抜糸まではインプラント植立部位のブラッシングはしないでください。
また、引き続きインプラントを植立した部位には過度の咬合力の負担をかけないようにしてください。

インプラント植立後1か月間の注意事項

インプラント植立後1か月がもっとも大切な時期です。引き続きインプラントを植立した部位ではなるべく噛まないようにして、舌や指でインプラントを押さないようにしてください。また、食事も努めて柔らかいものを取ってください。

インプラント治療に問題が起こった場合



インプラント手術

インプラント植立の際に、術前の検査にもかかわらずインプラント植立部位の骨が足りないこともあります。場合によっては手術を中止することもあります。その際は後日、骨を増やす手術を行って、インプラント植立手術を相談の上、行うこともできます。


インプラント手術2か月まで

インプラント植立後2か月を過ぎてもインプラントがぐらぐら揺れている場合、人工歯冠装着を延期して様子を見る場合があります。場合によっては再度インプラント植立手術をする場合もあります。


インプラント治療終了後に問題が出てきた場合

インプラントに装着した人工の歯冠が取れたり、破損する場合もありますので、その際にはすぐに来院してください。
また、インプラント治療を行った人工の歯以外の自分の歯に問題(冠が取れた、歯がぐらぐらしてきた等)が起こった場合でもすぐに来院してください。
全体の噛み合わせが狂ってくるのでインプラントに負担がかかりすぎることがあります。

監修者:外務省診療所副所長 堤 義親 先生